【1】はじめに

我々は、2013年2月に電流帰還式のスピーカアンプである 『 電流帰還アンプ AD00026 』を発売した。

今回の『 電流帰還式ヘッドフォンアンプ AD00031 』は、
AD00026で培った技術をヘッドフォンアンプ向けに適用したものだ。
電流帰還アンプAD00026と、電流帰還式ヘッドフォンアンプAD00031……その目指す理念は非常に単純だ。


スピーカ、ヘッドフォンの性能を最大限に引き出すこと。
その一言に尽きる。


このコラムでは、ヘッドフォンの性能を最大限に引き出すために、
『電流帰還式ヘッドフォンアンプ AD00031』で 取り入れている技術について、なるべくわかりやすく解説していきたいと思う。



【2】ヘッドフォンの周波数特性

ヘッドフォンの性能を最大限に引き出す、
そのためにはまず、ヘッドフォンの性能とは何か、と言う所から 考える必要がある。


ヘッドフォンは、機能としては入力電力を音量に変換するものである。
つまり、ある一定電力入れた時にどれだけの音量が出るか、それがヘッドフォンの性能であると言える。
しかしながら、この「一定電力を入れた時に出る音量」、は入れる周波数によって変わってきてしまう。

200Hz位の音と、2kHzの音では、同じ電力をヘッドフォンにかけたとしても、発生する音量は微妙に違ったものとなる。
これは、ヘッドフォンの材質や構造など物理的な要素に起因する問題で避ける事は出来ない。
そこで、入れる周波数を変えながら、それぞれの周波数毎に「一定の電力を入れた時にでる音量」を計測していったものが、
ヘッドフォンの性能を表すものとしてよく用いられている。

すなわち、これが周波数特性グラフである。 この周波数特性グラフはヘッドフォンによって、様々な形をしている。
このヘッドフォンは低域の量感が高い、といったヘッドフォン毎の音の違いは、すべてこの周波数特性グラフにあらわれてくる。



電流帰還式ヘッドフォンアンプの設計理念は、このヘッドフォン特有の周波数特性を如何に忠実に再現するか、
つまり、ヘッドフォンの性能を如何にして最大限に引き出すか、にある。



【3】周波数特性の単位

このセクションでは周波数特性の単位系に関して突っ込んだ内容を説明する。
少し専門的な話になるので、難しいと感じたら
次のセクション「一般のアンプでは、ヘッドフォンの周波数特性を再現しきれない」まで読み飛ばしてもらって構わない。


要は、周波数特性グラフは
「周波数毎に一定の電力を入れた時に出る音量」をプロットしていったものである、と言うことを説明している。



周波数特性を計測するにあたって、その入力と出力は如何に選ぶべきだろうか。
周波数特性の単位は当然デシベル(db)である。
デシベルとは、2つの数値(ここではヘッドフォンへの入力と出力)の比を対数で表したものであり、無次元数である。
つまり、周波数特性グラフにおいて、入力と出力は同じ次元(単位)を持たなければいけない。
出力は音量、すなわち音圧であるから、その単位はパスカル(Pa)である。
ここからは、少し物理の復習になる。

PaはN・m^-2であるから、SI単位系に直すとkg・m^-1・s^-2である。
しかし、ヘッドフォンからはその圧力を出す為の力として単位体積をかけた値を単位時間で出しているはずであるので、
m^3・s^-1をかける。 すると、ヘッドフォンからの出力の単位はkg・m^2・s^-3である。

ヘッドフォンへの周波数特性を計測する時には、入力はkg・m^2・s^-3で与えられる単位のものとしなければならない。
しかし、何のことは無い。これは電力ワットをSI単位で表したものである。
すなわちW =V・A = kg・m^2・s^-3である。
周波数特性グラフは、「入力はヘッドフォンへの電力、出力は音量(音圧)」で表されているものである、と言うことが出来る。


【4】一般のアンプでは、ヘッドフォンの周波数特性を再現しきれない

さて、前節までの内容を一度まとめておこう。


・電流帰還式ヘッドフォンアンプの設計理念は、ヘッドフォンの性能を最大限に引き出すこと、にある
・ヘッドフォンの性能とは、周波数特性グラフそのものの事である
・周波数特性グラフは、ヘッドフォンに入る電力を入力とし、音量(音圧)を出力とした比である






ここで、ある一つの疑問が湧いてくる。
周波数特性グラフはヘッドフォンに入る電力を基準に作成されるのが普通であるが、 一般のアンプは電圧駆動方式であるため、
ヘッドフォンにはオーディオ信号に応じた電圧の形で入力がかかるのではないか。

この疑問は全く正しい。

しかし、一般に電力P=V^2 / Rであるから、Rが一定である限り、特に問題にはならない。
R、すなわちヘッドフォンのインピーダンスが一定で変化しない場合に限り、である。


【5】ヘッドフォンのインピーダンス変化

さて、下に示したグラフは
公称インピーダンス32ΩのPioneer製SE-M290のインピーダンスを実際に計測したものである。



横軸が周波数、縦軸がインピーダンスとなっている。
公称インピーダンスが32Ωとなっていても、実際には周波数によってインピーダンスが変化してしまっているのが
お分かりいただけるだろうか。

フルレンジ・スピーカではこのインピーダンス変化はもっと激しいものとなっているが、
ヘッドフォンでも周波数毎のインピーダンス変化は確かに存在する。

(フルレンジ・スピーカのインピーダンス変化については、【電流帰還アンプとはなにか?】をお読みいただきたい)



このインピーダンスの変化によって、一般のアンプを使用した場合にはオーディオ信号に応じた形の音量が出なくなってしまっているのだ。
具体的には、インピーダンスが盛り上がっている100Hz付近と10kHz以上のあたりの音量は、他の周波数に比べて低くなってしまうのだ。
この事によって、低音不足/高音不足と言う現象があらわれてくる。
すなわち、一般の電圧駆動型のアンプでは、ヘッドフォンの周波数特性を正しく再現する事が出来ないのだ。


【6】電流帰還式によるインピーダンス変化の押さえ込み

電流帰還式ヘッドフォンアンプは、
【 LIIE 】( Load Impedance Independent Engine Technology) と言う技術を採用している。



これは、ヘッドフォンに流れる電流をセンシング抵抗によってセンスし、フィードバックする事により、
ヘッドフォンにかかる「電力」を一定に制御する技術である。
この技術により、電流帰還式ヘッドフォンアンプでは、
ヘッドフォンのインピーダンス変化にとらわれず、オーディオ信号に応じた電力を出す事が出来る。

つまり、ヘッドフォンの周波数特性を正しく再現する事が出来るのである。
しかし、残念ながらLIIEもヘッドフォンのインピーダンスがどれだけ変化してもそれを抑え込めるわけではない。
そこで、電流帰還式ヘッドフォンアンプを、使用するヘッドフォンアンプに合わせて最適化する必要がある。


最適化と言っても、作業は簡単である。
調整用抵抗を下の表に合わせて差し替えて貰えば良い。



調整用抵抗はソケット式になっているため、簡単に差し替えできる。
公称インピーダンスは、ヘッドフォンのマニュアルや製品ページの仕様覧に記載されているのでそれを探してほしい。
公称インピーダンスに対して倍半分位の領域でインピーダンス変化を抑える事ができるので、
多少設定値がズレても問題は無いが、できればヘッドフォンに合わせて最適な設定を行ってもらいたい。


【7】おわりに

さて、最後にもう一度ここまでの説明をまとめておく。


‥杜帰還式ヘッドフォンアンプの目的は、ヘッドフォンの性能を最大限に引き出す事にある
△海海埜世Α▲悒奪疋侫ンの性能とは、周波数特性の事である
ヘッドフォンのインピーダンスの変動により、一般の電圧駆動型のアンプでは周波数特性を正しく再現出来ない
づ杜帰還式ヘッドフォンアンプは、インピーダンスの変化を抑える事ができるので、周波数特性を正しく再現出来る



簡単ではあるが、電流帰還式ヘッドフォンアンプの優位性について、簡単にまとめてみた。
より深い内容や、細かいデータ等に関しては、本キットの監修をされた小野寺氏のHPを参照していただきたい。
電流帰還式アンプの動作についての理解が深まる事と思う。 




その他にも、この電流帰還式ヘッドフォンアンプは、【 OCL 】( Output Capacitor-less Technology)を採用。
電池4本を使用しているが、+-3Vで使用する事により、出力段のカップリングコンデンサを除去している。



カップリングコンデンサは原理上、どうしてもハイパスフィルタとして作用してしまうため、低音特性が悪化する。
それをなくすことにより、低音特性を大きく改善し、またポップノイズも除去している。

また、ケースもなるべく薄型のアルミケースを使用し、デザイン性/携帯性にも配慮した。
最後になるが、電流帰還式ヘッドフォンアンプはヘッドフォンの周波数特性を正しく出す事にかけては本当に高性能であるが、
その音が実際、好みに合うかどうかは別問題である、と言う事にご留意頂きたい。






電流帰還式ヘッドフォンアンプは低音から高音まで音量不足を感じる事無く、フラットな音が出る傾向がある。
人によっては、高音が強すぎると感じたりする人も居るだろう。
それは個人の好みの問題であり、アンプの性能とは関係の無い部分である。
薄味が好きな人もいれば、濃味が好きな人も居る、そう言う事である。

しかし、もしこのコラムをお読みの貴方が、電流帰還式ヘッドフォンアンプを用いて自分のヘッドフォンの音を聞いたことがなかったら、
是非一度、このアンプを利用して音を聞いてみてほしい。

電流帰還式ヘッドフォンアンプを用いて聞いた音が、本来のヘッドフォンの周波数特性をあらわした音だからである。
最後に、このような素晴らしいヘッドフォンアンプの製品化にあたり
監修/技術提供を行なってくださった小野寺氏に感謝の意を表する次第である。



2013年8月某日 株式会社ビット・トレード・ワン 阿部




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□[各種リンク]



[ ONLINE SHOP BTOS ] (ヘッドフォンアンプ直販ページ)
オンラインショップ ビートス


[ 小野寺 康幸 ] (監修・技術協力)
Einstein's electronic lab


[ アブソリュート株式会社 ] (販売協力)
神奈川県伊勢原市上粕屋 839−1

[ 株式会社ビット・トレード・ワン ]
神奈川県相模原市中央区相模原8丁目10−18フレンドビル3F  


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