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触感デバイス体感モジュール活用ガイド
触感デバイス体感モジュールの発売にあたり、本製品の開発にご協力いただきました触覚ハッカソン「ショッカソン」発起人 竹内 伸さんに触感デバイス体感モジュールの活用について寄稿していただきました。
様々なコンテンツやアート作品に簡単に不思議な触感を付け加えることに適した触感デバイス体感モジュール、触感とは、どのような要素で構成されているか 、どのような利用方法が考えられるのか、皆さんの活用の一助となれば幸いです。
●はじめに
この触感デバイス体感モジュールは慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)で開発されたオープンソースハードウェア「TECHTILE toolkit」を基礎により簡易に扱えるよう開発されています。
「TECHTILE toolkit」はモノや身体から触感を記録し、モノや身体にフィードバックすることで触感を再生・拡張するということを触感表現ワークショップの形で多くの人に使ってもらい触文化普及につなげる目的で作られています。
本モジュールはその中から記録された触感を再生させることに特化し、VR(バーチャルリアリティ)などの身体性メディアコンテンツを作るときのモジュールとして活用いただけるようにコンパクトに、また電池駆動可能に作られています。
●触感デバイス体感モジュールの動作原理について
触感デバイス体感モジュールの構造は非常に単純です。
触感を発生させるものの振動をコンタクトマイクで記録し、それを増幅し、振動アクチュエータで再現しているだけなのですが、再現する振動によっては、少し重さが変わったり(重量感)、モノが中で揺り動いていたり(慣性感)といった振動以外の触感も何故か伝わってくる感じがします。
これはある種の条件反射、あるいは錯覚、一種の共感覚によって起こってくるものと考えられます。
例えば本モジュールを紙コップの底辺に取り付けて以下の動画を再生してみてください。
動画提供:(c) TECHTILE project + YCAM InterLab
最初の紙コップにビー玉が放り込まれて回されるところで、振動だけではなく、重くなったり、振り回されたりしてるように感じると思います。たいがいの人はこれまで紙コップの中に氷や石ころ、ビー玉のようなものを入れて振り回した経験があると思います。その時に感じた重量感や慣性感、そして振動を合わせて記憶していると考えられます。
そのうちリアルな振動だけがモジュールによって呈示されるだけで、他の感覚は記憶の中から呼び起こされているのではないかと考えます。
もちろんビデオの中に実際の紙コップにビー玉を入れているとう映像があることもそれを補強する効果があると思います。実際のコップをビデオと同じタイミングで振ってみるとより体験が鮮やかになることもわかると思います。
●触感デバイス体感モジュールの使い方
触感モジュールの取り付け方法は、付属の両面テープを型紙に合わせてカットし取り付けていただく方法のほか、ネジ止めも利用できます。
「TECHTILE toolkit」の代表的なコンテンツのひとつに上にも紹介した紙コップを用いた触感伝送のほか、バドミントンのラケットに取り付け、ビデオにあわせてラケットを振るとまさにラケットにシャトルが当たったような感触を味わうことができます。
この「TECHTILE toolkit」方式ではビデオの中の映像と同じ動きをしてみることでより高い体感を得られることがわかります。
動画提供:(c) TECHTILE project + YCAM InterLab
「TECHTILE toolkit」の触感データページにはワークショップなどで作られたさまざまな触感を収録したビデオを楽しむことができますので、皆さんもぜひ試してみてください。
●触感付きコンテンツの製作について
ただ、収録されたコンテンツを楽しむだけでなく、本モジュールは様々なコンテンツやアート作品に簡単に不思議な触感を付け加えることに適していると考えます。
スクラッチなどの教育用プログラム環境を使ってアニメーションと連動した簡単な触覚コンテンツを作ってみたり、Unityなどのゲーム開発環境を使って触感付きVRコンテンツを製作したりするのも簡単です。
コンテンツの状況に応じて音声を発生するところを触覚データに置き換えて再生することで、触覚のための特別なプログラムを用意しなくて触覚付きのコンテンツを作ることができます。
コンテンツを作るときにまず考えなくてはいけないのが、何を振動させてそのコンテンツの体感を高めるかです。この方式は触覚を体感するオブジェクトが軽いものほどその効果が高いです。
また、多くの人が持った経験のあるものの方が振動を通じでさまざまな振動以外の触感も連想されることがあり、より質の高いコンテンツになる場合があります。
また、高度な応用としては、たとえば右チャンネルはBGMと効果音をミックスしてスピーカーから音声として再生、左チャンネルは触感データのみを再生するようにシステムを構築することで、視覚-聴覚-触覚の3つの感覚が融合したコンテンツを作ることもできます。
コンテンツに使う触感データの作成において、さまざまな触感を個別に録音して用意していくことはかなり大変な作業になります。
しかし、触感データは多くの場合、いわゆる効果音のデータに含まれているものです。たとえば、効果音ラボ(生活[1])のようなフリーの効果音サイトの音源をいろいろ試して、似たような触感の効果音データをそのまま用いたり、より低音が強調されるように音声波形編集ソフトなどで加工して用いることで、ほとんどの場合、新たに音源を収録しなくても触感データを用意することができます。これらを使って動画やアニメーションとうまく連動させることで効果的な触感コンテンツを作ることができます。
●TECHTILE toolkitや触覚についてもっと学んでみたい方に…。
TECHTILE toolkitについてもっと詳しく知りたい方には岩波科学ライブラリー『触感をつくる』をお勧めします。
TECHTILE toolkitをはじめ触覚全般の様々な面白いこと/不思議なことを楽しみたい方には
朝日出版『触楽入門――はじめて世界に触れるときのように』をお勧めします。
(上記サイトの中ほどに出てくる「音の触感」の音声を本モジュールで体験いただくと、よりその面白さが伝わってくると思います。)
触覚のメカニズムや触覚関連技術全般をしっかり学びたい人には若干高いですがS&T出版『触覚認識メカニズムと応用技術-触覚センサ・触覚ディスプレイ-【増補版】』をお勧めします。
それではこの『蝕感デバイス体感モジュール』を使ってさまざまな触感付きコンテンツを楽しみ、そして作っていってください。
触覚ハッカソン「ショッカソン」発起人
竹内 伸
ビット・トレード・ワンでは、触覚ハッカソン「ショッカソン」発起人である竹内 伸さんを迎え、触感デバイス体感モジュールを利用したワークショップを予定しています。
仔細は本サイトにて発表いたしますが、乞うご期待ください。
開催予定地:東京 秋葉原
各URL